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RESEARCH

―研究成果報告―
​研究の概要
東京学芸大学藤野研究室によるTRPGの取り組み

東京学芸大学 藤野博研究室では、研究員の加藤が中心となって、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などの発達障害のある子どもや青年を対象に、「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)」や「趣味トーク」、テーブルゲームなどの小グループ活動を通じたコミュニケーション支援・余暇活動支援の研究に取り組んでいます。

それは、自主性や興味・関心をベースにした支援

発達障害のある子どものコミュニケーション支援は、現在SSTのような訓練ベースの支援が主流ですが、最近は「本人たちの『自発性』や『興味・関心』をベースにした支援も教育や支援の現場に広がりつつあり、私たちが実践しているTRPGなどの小グループ活動もその1つとなります。

TRPGとは,複数名で集まってテーブルを囲み,紙と鉛筆、サイコロ、そして参加者同士の会話で架空の物語を作り上げていくことを楽しむ会話型ゲームの総称です。

TRPGについての詳しい説明は「TRPGとは」のページをご覧ください。

コミュニケーションを楽しめる発達障害の子どもたち

参加者同士がコミュニケーションと想像力を駆使して一緒に物語を楽しむゲーム……と書くと、発達障害のある子どもたちには不向きな活動のように感じられるかもしれません。しかし私たちが関わる子どもたちは、毎回この活動に積極的に参加し、活動の中でコミュニケーションを楽しんでいます。また、TRPGを通して参加児間でのコミュニケーションが促進されたり、意見をまとめたり折り合いをつけたりもできるようになっています(加藤ら,2012;加藤ら2013)。そしてTRPGに参加した発達障害児者の「生活の質(QOL)」(精神的健康や自尊感情、友達関係など)が向上した研究結果も出ています(加藤ら,2016)。

コミュニケーション力を引き出すTRPGの構造とは

一般に「コミュニケーションや想像力に質的な障害がある」「集団活動が苦手」と言われる発達障害のある子どもたちがTRPGを用いた小集団活動を楽しめている背景には、一般の子どもにも馴染み深いファンタジーなどの「物語」を題材にしていることのほかに、「ルールという枠組みやキャラクターという役割による情報の明確化」、「キャラクターを介した間接的なコミュニケーション」、「ルールの枠内での自由な行動選択」などのTRPGの構造が、発達障害のある子どもや若者の特性に合っている、という点が考えられます(加藤ら,2012)。また活動の中で表現される自由な想像力は、TRPGの中で展開される物語に反映され、それによって物語が変化します。そのことは、彼らのコミュニケーションだけでなく、社会とのかかわり方や自己理解・他者理解にも影響を与えていることが示唆されます(加藤,2014)。

必要なのはコミュニケーションの目的と環境作り 

発達障害のある(もしくは診断がなくてもコミュニケーションが苦手とされる)子どもたちは、必ずしも集団活動やコミュニケーションが嫌い/苦手なのではありません。TRPGや趣味トークのような、子どもたちのモチベーションが上がり、彼らの安心・安全が保障された環境や支援が整った中であれば、コミュニケーション・相互作用を自発的に楽しみ、自由にその想像力を表現・共有できています。

​主な発表・講演・取材

■テーブルトーク・ロールプレイングゲームによる自閉症のある児童生徒への余暇支援(Edupediaインタビュー)
https://edupedia.jp/article/5b1faaf62859398af371e6a4

■東京学芸大学公開講座「TRPGによる発達障害児のコミュニケーション支援」

(2016年8月実施)

​海外での発表

■Kato, K., Kamm, B.O.(2017).

Educational and Therapeutic Role-Playing in Japan

(presented at Knutepunkt 2017 in Oslo).

https://www.youtube.com/watch?v=wwfSeBmhDYk

■Kato, K., Fujino, H.(2016).

Do activities involving table top role-playing games enhance the quality of life in children with autism spectrum disorder?

(presented at the 11th Autism-Europe International Congress in Edinburgh)

※​ポスター資料をダウンロードしていただけます(1,11MB)

■Kato, K., Fujino, H., Yoneda, S.(2013).

Promoting social interaction among children with highfunctioning autism spectrum disorder using table-top role playing games

(presented at the 10th Autism-Europe International Congress in Budapest)

※ポスター資料をダウンロードしていただけます(1,18MB)

​関連書籍

■加藤浩平 編著『発達障害のある子ども・若者の余暇活動支援』(金子書房)NEW!
https://www.amazon.co.jp/dp/4760895566

■加藤浩平・保田 琳 著『いただきダンジョン RPG』

(コミュニケーションとゲーム研究会)

http://linedline.wixsite.com/yuugakugei/itadan

 

■藤野 博 編著『発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援』(金子書房)

http://www.kanekoshobo.co.jp/book/b243473.html

■藤野 博 監修『発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる本』(講談社)

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000196248

​主な研究論文

■Kato, K.(2019)

Employing Tabletop Role-Playing Games (TRPGs) in

Social Communication Support Measures for Children and Youth with
Autism Spectrum Disorder (ASD) in Japan. Japanese Journal of Analog
Role-Playing Game Studies, 0:23-28.
https://jarps.net/journal/article/view/3

■加藤浩平・藤野博(2016)

「TRPGはASD児のQOLを高めるか?」

東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅱ.67,215-221.
http://ir.u-gakugei.ac.jp/handle/2309/144696

■加藤浩平(2016)

テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)を活用した社会的コミュニケーションの支援.

藤野 博(編著)発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援(pp94-100).金子書房.
http://www.kanekoshobo.co.jp/book/b243473.html

■保田琳(2016)

TRPGの歴史、特徴から実地での活用について.

遊戯史研究.28,44-60.

※発表資料をダウンロードしていただけます(6.39MB)

■加藤浩平・藤野博(2015)

TRPGサークルに参加するASD大学生の語りの分析-余暇活動を通したコミュニケーション支援の観点から.

東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅱ.66,333-339.
http://ir.u-gakugei.ac.jp/handle/2309/137880

■加藤浩平(2014)

ASDの「自己理解」/テーブルトーク・ロールプレイングゲームからのアプローチ.

Asp heart:広汎性発達障害の明日のために.13(1),64-69.

NPO法人アスペ・エルデの会

■加藤浩平・藤野博・米田衆介(2013)

テーブルトーク・ロールプレイングゲーム活動における高機能自閉症スペクトラム児の合意形成過程.

コミュニケーション障害学,30(3),147-154.

■加藤浩平(2013)

テーブルトーク・ロールプレイングゲームを用いた発達障害のある児童・青年・成人への対人相互交渉・コミュニケーションの支援.

Asp heart:広汎性発達障害の明日のために.11(3), 84-91.

NPO法人アスペ・エルデの会

 

■加藤浩平・藤野博・糸井岳史・米田衆介(2012)

高機能自閉症スペクトラム児の小集団におけるコミュニケーション支援-テーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG)の有効性について.

コミュニケーション障害学,29(1),9-17.

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